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ニュージーランド 自転車の旅

空、雲、山、川、森、雨、

そして風の国

Southern Highway 2500km

ニュージーランド南島一周

チャリ(MTB)の旅

 

 

亜南極圏強風帯「吠える45度」 南島の南端地方には絶え間なく西風が吹き付ける

 

INDEX 目次

[TOP] 出発前の遠征準備から入国当日まで

[1] 第一週 カンタベリー平野 クライストチャーチから南へ

[2] 第二週 南を目指す道 ダニーデンなど

[3] 第三週 吠える45度 Catrins Coastなど

[4] 第四週 Main South Road クイーンズタウンなど

[5] 第五週 雨の国 西海岸からエイベル・タスマン国立公園

[6] 第六週 海岸国道 ネルソンからクライストチャーチへ

 

ニュージーランド政府観光局 日本語

ビジターインフォメーションセンター「アイサイト 」日本語

 

地図中の赤い線はルート図 右回り1周約2500km

 

 


 

 

 

 

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第五週 雨の国 

西海岸から

エイベル・タスマン国立公園へ

 

 

 

 

 

 

第五週目(1)

豪雨 サザン・アルプス越

西海岸といえば、ともかく降水量が多いところで、ほんとうに1年中雨が降っているような、そんなところだ。サザンアルプス越の薄暗い山道を抜けてHAASTという海岸に至ると、いきなり目の前には暗い色をした海があらわれる。タスマン海はオーストラリアとニュージーランドの間に広がる海だが、第一印象は、「暗い。」それだけだった。

雨も多いけど、ともかく花が多い西海岸の道端

ワナカからハーストに抜けるサザンアルプス越は特に難所というわけでもないが、ともかく薄暗くて狭く、それがかえって懐かしい日本の田舎の山道を連想させる。九州の椎葉村周辺や四国の国道439号線、あるいは東北各県の国境をまたぐ国道がこんな感じだったことを思い出す。谷あいを曲がりくねり、対向車はなかなか見えない。ガードレールの下は渓谷になってる。鬱蒼とした森林のなかをくねくねと道路は続く。サザンアルプス越はそれにそっくりだ。僕はもっと雄大なものを連想していたのだが。

HAASTまであと十数キロのところで交通事故に遭遇した。曲がりくねった山道は見通しが利かない。おまけにこの日は雨だったから、なおさらだろう。カーブでスバルレガシイと三菱ランサーが接触事故をおこした模様だが、幸い双方にも怪我はないらしい。それにしてもこの国もまた他の南半球諸国同様に日本車が多い。特に三菱の中古車は人気がある。

山道を下るとHAASTという小集落。特に何があるわけでもない。広い海岸線にタスマン海のウェーブが延々と続いている。背後はいきなりジャングルだ。海岸の狭い平野に張り付くように数件の民家がありモーテルが細々と営業している。通り過ぎていく人が多いので、集落にも活気はない。ドライブイン・カフェでトイレを借り、ついでにバイキング式の昼食を食べていく。NZのランチといえばフィッシュ&チップス。魚のフライにフライドポテトという少々油っこいものだが、どんな小さな町のテイクアウェイにも必ずある。値段も手頃で5〜8ドルくらい。日本でいうと「おにぎり」のようなものらしい。

雨降りの肌寒いときには熱々の「うどん」とか「そば」が食いたくなるが、残念ながらそれに相当するランチはない。せいぜいミルクたっぷりのカフェオレといったところだが、僕には物足りない。

アルプスをこえて西海岸に着くと、雨はいっそうひどくなる。ドシャ降りだ。


第五週目(2)

人の心を蝕むのか、世界遺産  FRANZ JOSEF

ニュージーランド南西部の山岳地域は世界自然遺産に登録されている。山には氷河が140箇所以上、海岸地域はフィヨルド地帯になっており、自然が濃厚に残された素晴らしい地域、地球の宝だ。もちろん世界各国から訪れる観光客は途切れることがない。

しかしながら、その弊害もあるように感じる。まず顕著な例が便乗値上げと対応のマズさ。どんなに横柄に振舞っても客はどんどんやって来るから、観光業者は舞い上がり、質を落として金だけを吸い上げることに狂喜奔走する。それでも客は札束ふりふりやってくるし、面白いように金が儲かるから、まともな神経ではいられなくなってしまうのだろうか。同じような例は日本国内でも見られるが、ここニュージーランドでも同じだった。観光バブルに踊らされると人の心は荒んでしまう。どこも同じだ。

大雨のなか、FRANZ JOSEFに着いた。フランツジョセフ氷河で有名な観光の町。世界自然遺産「ニュージーランド南西部」においてはミルフォードサウンドやマウントクックに次いで著名なことから、1年を通して訪れる人は数多い。雨のなか、一人でひっそり訪れた自転車のツーリストなどはその多数のなかのひとかけらにすぎず、しかもお金持ちには見えないはずだから、彼らの目から見るとゴミ同然だったのかもしれない。受けた対応は惨めなものだった。

とあるホリデーパーク(キャンプ場)に着いた。大雨のなかテントを張る気はしない。キャビン宿泊を申し込む。

満員だね。それに予約のない者はダメだ。テント貼りなよ。テントサイトなら空いてるから。

外は物凄い豪雨。キャンプグラウンドは全体がすでに泥水に没している。

僕は落胆が隠せない。しかし雨のなかを町の中心部まで戻ってバックパッカーやYHを一軒一軒当たるしかない。町までは1.7キロある。気が重い。肩を落として出て行こうとした。

おっとヘイメン、待ちなよ。ツーリストフラットなら1つだけ空いてるよ。105ドルだ。泊まるかい?

まるで人の心を見透かしたかのようだ。宿泊を申し込んだとき、やばい雰囲気を感じた僕が満を持してクレジットカードを提示したのを彼らは見逃さなかったのだろうか、満員のはずのホリデーパークだが、いちばん高いユニットだけが空いているというのだ。再び外をみた。相変わらずの豪雨、さらには雷鳴が轟いている。時間はすでに午後4時をまわっている。

・・・負けた。

仕方なく、ツーリストフラットの申し込みにサインをした。

1泊105ドル。どんな立派な部屋だろうと期待していたが、ムダだった。ベッドが2台。洗面をかねたトイレはあるがキッチンはない。まあ、ベッドメイクがされていることが唯一の救いだが、ヒーターは15分で切れるオートタイマー式で暖房したまま寝られないようケチに徹したものだった。洗面のお湯はでない。照明は暗い電球が2個。韓国製の、リモコンが壊れた小型中古テレビ1台。コンセントは2口しかないので、いろんなモノで順番に使いまわすしかない。

これほど露骨なところも珍しいと言えるが、この先、西海岸地域はニュージーランドの他の地域とは明らかに肌色の違う対応や醜い出来事に時折遭遇してしまうことになる。僕は再びニュージーランドを訪れることがあったとしても、もう2度と西海岸には行かないだろう。まあ僕一人が敬遠したところで、彼らはノミが一匹潰れたに過ぎないと考えるだろう。ほんの少しも痛くも痒くもない。でも、ノミにだってプライドはある。

中央付近の灰色が海岸近くにまでせり出した氷河 ただ、もう見に行こうという気がしない

翌朝、雨は小雨になった。こんなところはさっさと立ち去ろうと思う。向かいの棟はスタンダードキャビン。満床だと言われた幾分経済的な値段の部屋だが、いくつかのキャビンには一晩中、明かりが灯ることはなかった。 それはつまり、空室ありだった、ということだ。

ボクは足元を見られて吹っ掛けられたことで間違いないようだ。

2006年、知床。日本。今年、ほんの数軒を除いて、宿泊施設が足並み揃えて一斉に値上げするという。知床もまた“彼ら”と同じ道を歩むつもりだろうか。

 

左から2番目は珍しい食虫植物。砂塵地帯で見つけた


第五週目(3)

めちゃくちゃな天気 ROSS 人口450

フランツジョセフを出発する朝はめちゃくちゃな天気だった。まず早朝。晴れ間がのぞいてきょうの天気に期待をさせる。昨夜キッチンで会って仲良くなったオランダ人のおじさんと今朝もまたキッチンで立ち話をする。キャンプ場の朝のキッチンの世間話はというと、もっぱらお天気に関する話題が多いもの。「きょうは自転車には最適だよぅ〜」と、おじさん。やたらと太い親指をグィッと突きたてる。オランダおじさんはこのガイジン的ポーズがやたら気に入っている様子で、何かというと親指をたててニッと笑うのだ。ちょっと違うんじゃないかな〜と思うこともあるのだけど、とりあえず僕もニッと笑ってグィッと力強く親指をたててみせるのだ。Good!

粥と玉子焼と味噌汁の純日本的朝食を済ませて食器を洗っていると、こんどは夕立。雷をともなってドカドカと降り始める。このキャンプ場に連泊する気がない僕は是が非でも出発する気でいるので不安でしょうがない。夕立はまもなく上がったが、小雨が降っている。でも、晴れ間も見えている。なんだかめちゃめちゃな天気だ。西海岸は雨が多いところだと解ってはいたが、それにしても支離滅裂な天気で自転車にはちょっと辛い。

昨夜はこのキャンプ場の経営者?管理人?達にさんざん馬鹿にされたので、ここには絶対連泊したくない。さっさと出発しよう。

とりあえず曇りで出発。オランダおじさんが親指をたてたポーズで僕を見送ってくれた。しかしキャンプを出て1キロもいかないうちに雨が降り出す。すぐさま愛用のパタゴニアのストームジャケットとクイーンズタウンで買ったばかりのマウンテン ハードギア社のレインパンツを着用。透湿防水性はともかく、チャリにはベンチレーションがたくさんついたウェアがいいと思う。ストームジャケットはいつも脇の下のベンチレーション・ジッパーを全開にして着ている。また新しいレインパンツもサイドが大きく開けられるので、涼しくていい感じ。けっこう気に入った。靴には、いつものようにスーパーの袋を履いた。きょうの袋はスーパーマーケット「フレッシュチョイス」のレジ袋だ。ちょっと薄めで、パックンセーブの袋よりは弱い感じがする。

またまた夕立に遭う。こんどはヒョウ。小粒の氷が機関銃のようにドバババと降り注ぐ。雷鳴も轟く。もう、ほんとに半泣きだ。やけくそでヒョウなんか無視して走る。でも、雷が怖くて気が気ではない。ド〜ンときたらどうしよう。

日本の6月上旬くらいの季節なのだが・・・

また晴れた。と思ったら雨が降る。面倒なので、ず〜っとレインウェアを着たまま走る。休憩もほとんど取らずに無言でペダルを踏む。108km走ってRossというウェスタンチックな小さな町に至る。チェックしていたわけではないのだが、なんとなく町の雰囲気が気に入って町の宿屋を探してみる。

Rossの町の中心には古い酒場(パブ)があって、そこが安ホテルを兼業していた。

西部劇に出てくるような、なんともウェスタンなパブで、本物のウェスタン・ドアをギィィィと押して入ると正面には大きな暖炉があった。

本物のウェスタンなカウンターがあり、ウェスタンなビリヤード台があり、リアル本気なウェスタンな人たちがビールを飲みながら、それぞれのウェスタンで深刻な話に興じていた。

一瞬、全員のウェスタンな視線が僕に集中した。

僕は瞬間冷凍された。立ったまま、金縛りだ。

が、すぐに視線は解けて僕も解凍された。ひぇ〜〜〜。

勇気を出してパブのカウンターに進み出る。いつものように

「エクスキューズミー。キャナイ、ステイ、トゥナイッ?」

バーテンのおじさんは70歳前後で立派な口髭をたくわえている。

先ほどまで40歳くらいの農夫男性の、何やら深刻な相談話に乗っていたようだが、僕をみて話を中断してくれた。このお店、決してやばい雰囲気ではない。

僕もあとで飲みにこようかなと、ふと思った。みな、でっかいジョッキでニュージーランド国産のアイルランド風な濃ゆいビールをぐびぐび、美味そうにやっているのだ。まわりの、みんなそうだ。みんな旨そうに飲むものだから、余計に羨ましくて喉が鳴る。スパイツの樽生に骨付きラムのスパイスロースト。うまいだろうなあ・・・。

必死の努力で誘惑を振り払い、気を取り直して一番安い部屋を取る。

蚕棚ベッドの部屋で、まあ、見方によっては監獄やら収容所にも見えなくはない。寝具はないから自分の寝袋を使う。天井からは裸電球が1個だけぶら下がっている。1泊たったの18ドル(1500円)。

もちろん独房、じゃなくって個室なのだ。

僕のほかに宿泊者はいないようだった。


第五週目(4)

西海岸はトロピカル? PUNAKAIKI 人口40

ちょっと疲れていたのか、Rossの朝は寝坊した。カーテンを開けると外は眩いばかりの快晴、昨日のデタラメな天気は去ったようだ。気圧計の数値もグンと上がっている。しばらくお天気がつづくのだろうか。

出発はいつもより遅めの9時半。開店準備中の昨日のウェスタンなパブに寄って鍵を返してから出発する。パブではきれいな女性がビリヤード台のまわりで掃除機をかけていた。彼女がサンキューといってウィンクを投げてよこす。予期せぬセクシー攻撃を不意打ちに食らい、朝からいきなり鼻血が出そう。

煩悩のせいなのか疲れなのか、今朝はペダルを踏む足が重い。きょうはどこまで行こうか。この先70km弱には西海岸最大の町グレイマウス(人口1万3千)があるが、1日行程にしてはちょっと近すぎる。まあ、とりあえず行こう。グレイマウスは西海岸最大の町とはいっても僕の住む北海道美瑛町よりも人口は少ない。それでも大きなスーパーもあるだろうし、きっと久しぶりにボーダフォンが使えるようになるはずだ。家族からのメールを受信できるようになるから、それが楽しみ。そういえばしばらく日本語に接していない。

天気はいいのに風は無情な向かい風。旗がなびく程度だがMTBには十分すぎる負担が圧し掛かってくる。能率20%ダウン、サイクルコンピュータをみれば一目瞭然だ。疲れもあるだろうが、向かい風でモチベーションが下がっていることも元気低下の原因として大きい。

鉄橋ではなく木橋。こんなところもウェスタンっぽい。グレイマウス郊外にて

それでも久しぶりの上天気なので気持ちはいいが、力が入らない。もしかしたらスタミナ切れかと思って今朝作ったばかりのランチ用のサンドイッチを11時になる前に食べてしまった。そういえば前夜は悪天候のなかを突っ切ってきた疲れのために何もする気になれず、牛乳1ℓとトースト1枚しか食べなかったのだ。今朝もオレンジジュースとトースト4枚(薄切りなので日本サイズの2枚に相当)を食べたきり。これでは連日の激しい運動を支える僕の大きな体が保てるとは思えない。

道端でトーストにコールドビーフを挟んだだけのサンドイッチを食べ終えると、ようやく元気がでてきた。昼ごろにはグレイマウスの町に到達。さらに見かけたガソリンスタンドの売店でサンドイッチを追加購入して戦争記念碑のベンチでガツガツ食べた。俄然元気が沸いてきた。やはり体は正直だ。

グレイマウスで大型スーパー「New World」を見つけたので食料を補充する。きょうは久しぶりに新鮮な牛肉のステーキを食べよう。何しろニュージーランドの牛肉は安くてうまい。僕の大好きなサーロインステーキは、和牛よりも香ばしくサクッと焼きあがり、素晴らしく美味だ。もちろんオーストラリア産よりも米国産よりもはるかにうまい。サーロインは100g170円前後、モモ肉は100円前後、ヒレ肉は220円前後くらいだろうか。モモ肉ステーキなど400〜500gくらい、僕の顔くらいの大きさで売られている。

それにしても西海岸はなんと気候が温暖なことか。日々北上するごとに気温も上昇していることを感じるが、それ以上に空気が温い。行く手の左は海、右は鬱蒼としたジャングルで、谷には常に豊富な沢水が迸っている。道端にまで花が咲き乱れているのを見かける。それも原色系の情熱的な色彩の濃い花と出会うことが多くなった。南国色だ。

左手はタスマン海。暖かい南赤道海流がやってくる。 対岸はオーストラリア大陸

晴れると紫外線が非常に鋭い。僕の腕や足がたちまち赤茶色に変色しはじめる。そろそろ日焼け対策を講じなければ大変なことになりそうだと思った。

グレイマウスでは補給と食事のみを行い午後には通過する。都会には長い無用だ。

たちまち交通量は激減し、またひとりぼっちになる。

険しいものの、景観のすばらしいトロピカルな雰囲気の海岸道路を北上する。風は追い風にかわり、スタミナがついたおかげでペダルも軽やかにまわる。そのまま午後6時まで走り続けた。

出発してから110km。美しいビーチのある集落に出る。過疎の村のようだが、それに不釣合いな豪華なリゾートホテルが混在していたりする。日本のもののように巨大施設ではなく、こじんまりしたセンスのいい建物で、細部にわたって贅沢なつくりだとひと目でわかる。大人の身長の2倍もありそうな大きな窓が各客室の海側に向かってせり出していて、映画でみるような立派なデッキチェアがおいてある。欧米のお金持ちの老夫婦が泊まっているのではないだろうか。ジャグジーバスらしきものも見える。年寄りになったら妻を連れてきてやりたいと思うが、その夢は適うだろうか。

地図で確認するとこのあたりはPunakaikiというらしい。見ればビジターセンターもあるし海岸沿い数キロにわたって宿泊施設が混在していて、キャンプ場もあるようだ。きょうは海に沈む夕陽をみながらキャンプすることに決めた。そして、久しぶりに新鮮な牛肉のサーロインステーキを焼いて食べるのだ。

夜、久しぶりに南の空に南十字星をみた。ニュージーランドの国旗と同じクロスが夜空に瞬いている。見違えようのない、しっかりと立つまっすぐな十字。胸に刻み込んでから寝袋に入った。

 

 

 

 

西海岸道路の道端の花いろいろ 右端は巨大なゼンマイ(シダの幼胞、)大人のこぶしくらいもある。


第五週目(5)

調子の悪い日 Westport 人口4500

「11月23日(WED) きょうはめちゃめちゃ辛い1日だった。理由はよくわからない。西海岸は景色はいいのだが、あまり相性が良くないのかもしれない。走行距離56km」

この日の日記にはそう記されている。プナカイキからウェストポートまでは南四国の太平洋岸のようなダイナミックな景色のなかをひた走る。道路の左は断崖絶壁になっていて、海に向かって切れ込んでいる。

しかし日記は上記だけで終わっている。ただ辛い1日だったという記憶しかない。この先はこの日を思い出しながら補足しながら書いてみる。

西海岸にきて思うことがある。人が、どうも冷たいのだ。

ニュージーランドらしくない。

昨日のキャンプ場のオフィスでも仕事が嫌で嫌で仕方がないという対応をうけた。オフィスオープンの時間内だというのに鍵が閉まっていて、ブザーを鳴らすと顔じゅうに怒りをあらわにしたオバサンが現われて受付をした。終わると追い出されてバシャッと鍵をかけた。まるでゴミのような扱いだ。

道路でもそう。後ろから来る車に激しくクラクションを鳴らされる。

何か迷惑をかけただろうか?

他地域と比べて道路が特に狭いとは思えない。おまけに交通量はきわめて少なく僕のMTBが交通に支障をきたしているとは思えないのだが、西海岸に来てからというもの1日に1〜2回はクラクションを浴びる。

特にこの日には暴力的な車に遭遇した。彼には殺意があったのかもしれない。

ニュージーランド名物 飛べない鳥 海岸に突然でてきた

これは日本でもたまにあることだ。車に乗ると人格が変わる人がいるが、なかには交通弱者に対して攻撃性をむき出しにする人もいる。15年ほど前、名神高速道路でスポーツカーに激しく煽られたことがあった。猛スピードでバイクの後ろに追いすがってくる。時速160km、ほんの少しでも接触したら僕は死ぬ。しかも、自損事故として死んで行くことになる。他の車の間に滑り込んでなんとかやり過ごしたが、あまりに腹が立ったのでその赤いスポーツカーを追跡して愛知県のサービスエリアで運転する男を引きずり出した。今おもえば若気の至りだが、毎年バイクの自損事故で死んでいくうちの何パーセントかはおそらくこういう男に殺されていると僕は確信している。ただ、証拠は残らない。

外国でも同じことで、まあ自転車だから殺されることはないだろうが、暴力的な車に遭うことは決して珍しいことではない。ハンドルの右わずか数十センチのところを猛スピードで追い越していく車など日常だ。しかし、それを西海岸のひと気のない道路でやられると恐怖となる。

病気は怖い。怪我も怖い。猛獣や猛毒をもつヘビや昆虫も怖い。ときに牙をむく自然も怖いが、やはり何といっても人間が一番こわいと思う。

西海岸はなぜこんなに人が冷たいのだろう?地域性なのだろうか?それとも、観光客がひっきりなしに訪れる地だから、観光客に疲れ観光マネーに狂わされて心が蝕まれたのだろうか。

世界遺産をかかえる地というのは、いろいろと新しい問題もまた抱えているような気がする。

 嫌な目に遭うことはあっても出会う花は美しい


第五週目(6)

山道とサンドフライ Murchison 人口600

昨日までに西海岸を北上してウェストポートに至った。ここからは内陸に入り、ふたたび山脈を横断してエイベルタスマン国立公園を目指すことになる。きょうからはしばらく山道になる。大きな川沿いに国道が伸びている。

渓谷沿いの国道は僕が高校生のころによく走った四国・吉野川沿いの国道32号線の山里の風景に驚くほど似ている。実に日本的な景観で外国という気がしない。どこか懐かしさを覚える風景だ。

道路と鉄道の併用橋 実に合理的 ただし1車線だから正面衝突するかも?

渓谷の道はやや狭く、断崖を縫っている。所々に岩を削り取って作った、いかにもヤバそうな半トンネル状の区間もあり、そんなところは1車線になっている。そういうところまでいかにも四国に似て笑っちゃうくらいだ。

本当にヤバいところだけはガードレールがあるが、あとはほとんど何もない。道路脇には僅かに緑地があるが、気休め程度に過ぎない。あとは20〜30m下まで真っ逆さま、つまりミスをすればあとは運を天に任せるしかない。こういうところでは車はかえってスピードを出せないだろう。リスクが高すぎる。

MurchisonとWestportの中間の集落周辺で1〜2台ごとに数回、チャリダー(自転車旅行者)に出会う。クイーンズタウンまで全然出会わなかったチャリダーだが、西海岸に入った途端に毎日のように数人に会うようになった。クリスマス休暇のある12月が近づき、そろそろ気の早い者から順に夏の旅に動き出したらしい。僕はすでに旅の終盤だというのに。なんだか羨ましい。

僕の旅の序盤はまだ冬の名残を感じる日々だった。おかげで満開の桜にも出会えたし、春爛漫を楽しむこともできたのだが、11月に入るとはっきりと夏の訪れを実感するようになった。おまけに温暖湿潤な西海岸を日々北上しているわけだから、夏がどんどん近づいてくるのがわかるのだ。そろそろ短パンで走る機会も多くなってきた。暑い。

ジャングルにぽっかり開いた穴 金鉱の跡だという

しかし、困ることもある。温暖湿潤な西海岸にはサンドフライと呼ばれる吸血虫が多い。日本ではブヨと呼ばれて知られているが、ブヨよりもひと回り小さい。北海道大雪山周辺の沢にも牧場周辺のブヨよりもひとまわり小さくて強烈なパワーをもつブヨがいるが、ニュージーランドのブヨ「サンドフライ」はさらにもうひと回り小さい。パワーは並だが執拗さが異常で、どこまでも追ってくる。短パンのチャリダーは格好の餌食というわけだ。

西海岸や山間部はまさにサンドフライの天国。キャンパーの地獄。僕の足には順調に刺され痕が増えている。かゆい〜〜〜!

Westportからちょうど100kmを走って山間の町Marchisonに到着する。ここは周囲100km圏内唯一の町なので通過するわけにはいかない。ガソリンスタンドもこの町に1軒あるだけなので、車もこの町には必ず立ち寄っていく。ここは知床よりも襟裳よりも宗谷よりもはるかに僻地なのだ。あの知床にだってウトロ側羅臼側どちらにも何軒ものガソリンスタンドがあるしコンビニだってある。しかし、このあたりには本当に何もないのだ。

本当にないから注意しようの看板

さて、Marchisonだけど、町とはいえ最小限のものがあるに過ぎない。小さなスーパーマーケット、ガソリンスタンド、パブ、雑貨屋さんに車の修理工場、それぞれ各1軒。以上それだけだ。戸数20〜30、それからモーテルとバックパッカーがいくつかある。

僕は町から1km離れた公営墓地の隣にあるキャンプ場に向かう。設備の何もかもが古ぼけたキャンプ場だったが、最近オーナーが替わって、若いオーナーがコツコツと設備を手入れしているようで古いなりにも思った以上に快適だった。夜半から雨が降り出したため、キャビンを1棟借りてここに2泊することにする。クローゼットもデスクもヒーターもあるキャビンが1泊12ドル(1千円弱)と破格だ。

気がつけば体重が出発前よりも15キロ落ちていた。1ヶ月で15キロはちょっとすごいと自身で関心する。特に顔が小さくなっていることに驚いた。洗顔をしているときに気付いたのだ。「あれ?おれ?」みたいな感じで。

しかし体重はこのあと再びジワジワと増え始める。旅に体が慣れたのだろう。

 


第五週目(7)

風は辛いのだ Motueka 人口5000

マーチソン公営墓地の隣にある快適なキャンプ場3日目の朝は快晴。雲ひとつない真っ青な空にはほれぼれする。2泊お世話になったキャビンハウスともお別れする。この2泊3日の間の食料として鶏を1羽買っておいたのだが、それも今朝までに平らげた。丸ごと1羽のローストチキンはスーパーに普通に売っている。1羽10ドル(850円)くらいだからお得だと思う。ローストチキンだからそのまま食べてもいいし、雑炊やスープにしてもいい。カレーで煮込むとおいしいタンドリーチキンになる。このように1羽丸ごとのローストチキンは用途が広いから旅行中よく利用した。また激しい運動をするとカルシウムが不足しがちになるので、小骨はガリガリと噛み砕いて食べた。僕は魚の頭なども噛み砕いて食べるのが結構すきなのだけど、鶏のあばら骨は骨類のなかでは結構おいしいと思う。ケンタッキーフライドチキンであばら骨周辺の胸肉がでると骨までカリカリ食べるヒトはけっこう多いのではないだろうか。チキンのあばら骨はおいしいから。

雨降りの間にたくさん睡眠をとり栄養をとり休息したので調子がいい。きょうも山間部ルートだし峠越えも控えている。少しハードなのでMotuekaまでの区間134kmは2日間かけての行程だと考えていたのだけど思った以上に調子がよかったためキャンプ予定地には正午過ぎには着いてしまった。調子がいいので、もうちょい先まで行こう、あと10キロ、あと1時間と伸ばし伸ばししているうちに宿やキャンプ場はおろか町も集落もない50km区間に突入してしまった。仕方ないので走り続けることにする。

運がいいことにその50kmは徐々に下り勾配しており、しばらく続いた山間部ルートが間もなく終わることを示唆していた。きれいな川に沿って素朴な1車線の道路が延びている。景色は間もなく田園地帯に変わり、小さな町に出会う。その町唯一の食料品店でコーラを1本買って一息いれる。

きょうの走行距離100kmを超えたあたりから強い向かい風が吹き始めた。北風、あたたかな海風だ。海風は日本でもお馴染みのもので、天気がよくて内陸の気温が上昇すると上昇気流が発生して海上から内陸へと大気がどんどん流入する。これが海風と呼ばれる強い風の正体だといわれる。北海道でも北見〜石北峠の区間では夏によく海風が発生する。日本列島は海風が発生しやすい地形なので、日本中で同様の現象が見られるはずだ。1日の気温の差が大きい季節ほど傾向は顕著になる。海風は独特の肌触りがある風なので敏感なひとや田舎育ちのひとにはすぐにそれとわかると思う。僕は瀬戸内育ちなので海風には敏感だ。風に懐かしい海の匂いが混じっているから。

それにしても下り坂の向かい風ほど不快なものはない。もう、めちゃめちゃ大損してるってカンジで、泣けてくる。懐かしい海の匂いだぁ〜なんて詩的に感傷にふけったりしない。けっ!また海風かよ、泣けるよな!とか言って毒づいている。正直なところ。

自転車に乗っているとよく「峠は大変でしょう?」とか言われるが、峠って実は皆に尊敬されるほど大変なものではない。予測可能だし、登ってしまえば楽しい下りが待っているからプラス&マイナス=0になる。小さな峠の連続はキツイが、みんなが尊敬してくれるような大きな峠って、実はたいした障害じゃないから。

ところが、みなさん風って、すごく辛いってご存知だっただろうか。向かい風はただの拷問だし、横風は生命に関わる。唯一許されるのは追い風だけど、そんなラッキーは滅多にあることではない。

旗や鯉のぼりがパタパタはためく程度の快適な風が向かい風になった場合、自転車の走行能力は50%も落ちてしまう。特に旅の自転車はたくさんの荷物を積んでいるから、そのバッグなども風の抵抗を受けてしまうから、かなりの負担増になってしまう。風はつらい。

よくオートバイ旅のひとが「俺は風になる」とか言っているけど、あれってちょっとむかつく。正直いって、「おめえ甘っちょろいな」って思ってしまう。風って辛いんだぞ。化石燃料に頼ってるやつにはわからないだろうけど。

僕とMTBは風に悪態をつきながら重たいペダルを踏み続ける。道路に木々が覆いかぶさり、緑のトンネルになったところがあった。トンネルのなかに入ると風がやんだ。ほんのつかの間の静寂を僕たちは走り抜けていく。

頑張った甲斐あってMotuekaの町には夕方6時少し前に着いた。ついに南島北部、エイベルタスマン国立公園のGatewayに自力で辿り着いたのだ。おおまかではあるが、旅の最終目的に限りなく近づいたことになる。Motuekaではシーカヤックを積んだ車をたくさん見かける。この国立公園は海岸線がとても美しく、シーカヤックがさかんで世界中からカヤッカーが集まるという。

気候温暖なこの町のスーパーでは、果物がとても豊富なことに驚いた。旅行中は野菜や果物が極端に不足するものだけど、きょうはちょっと飢えていたのかもしれない。つい興奮してたくさん買う。この日はこれらの果物で夕食にした。レモンでさえ旨いと思った。ちょっと疲れてきているらしい。

海もキレイだし、暖かいし、ここらで休もうと思う。

 

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